
谷崎潤一郎『刺青』(トイプードル通信2018年5月号より)
今月の課題図書は
谷崎潤一郎
『刺青』
横浜美術館で開催のヌード展の目玉がロダンの「接吻」でした。
これは、不貞行為、いわゆる不倫で、夫の逆鱗に触れ殺されてしまう前の恋人たちの、
最後にして永遠の接吻を題材にしたもの。
パオロとフランチェスカの物語です。
ロダンの「接吻」は、かなり力強く、堂々としてんな~と感じましたが、
テーマとしては死の影が漂う退廃的ロマンス。
なので、今月のオトナの課題図書は、
退廃美を書かせたら右に出る者はいない、谷崎潤一郎をピックアップです。
なんとなんと、愛が強すぎて今までもったいぶりすぎたのか?
トイプードル通信でご紹介していない!まじか、びっくりだ。
一体何を紹介してきたんでしょう、今まで。
一番好きな作家は?
そう聞かれたら、迷いもなく谷崎潤一郎です。
全てにおいて、痺れるのはこの大作家です。
私は「陰翳礼讃」が一番好きですが、「刺青」は、谷崎文学の真骨頂かもしれません。
江戸時代。
刺青が粋なものとして流行していた時代。
清吉という腕利きの彫師がおり、この若い彫師の心にはある宿願が潜んでいます。
それは、光輝ある美女の肌に、己の魂を彫り込むこと。
あるとき清吉は、やっと探し求めた美女に出会い、
その若い女を麻酔薬で眠らせ、女の背中に己の魂を移した大きな女郎蜘蛛を彫るのです。
麻酔から目覚めた女は、清吉も驚くほど、以前とはまるで別人のように変わってしまいます。
「親方、早くに私の背の刺青を見せておくれ、お前さんの命を貰った代わりに、私はさぞ美しくなったろうねえ」
まさに背中に背負った女郎蜘蛛そのもの、
男を手玉に取る魔性の女になってしまうというお話。コワヒー
肌に何かを纏うということは、その事実以上に、人間の精神に影響を与えるのだそうです。
いかつい服を着ると、強い男性になったような気分になり、態度が大きくなったり、
ふんわりとしたドレスを着ると可愛い女の子になった気分になり、仕草まで可愛くなる、、、みたいなことですね。
ネイルをすると気分がアガル。とかよく我々女子は言いますが、それもたぶん似たようなもんです。
女の本性が、刺青によって暴かれたのか、
それとも女郎蜘蛛が憑依し女を変貌させたのか。
分からないですけど、
本来は無垢な肌の上に、
私たちだって誰しも、幾重にも鎧を重ねて、強く見せたり、か弱く見せたり、
そんな風に自分をプロデュースしながら生きてるのです。
だってサルは服着ないし。
それこそがアダムとイヴから始まる人間の愚かさであり、
人間の人間たるゆえんの、脆弱な美しさである気がしてなりません。
究極のフェティシズム文学、
お口に合えば、是非どうぞ。
おやすみ、
おはよう。
では、また会う日まで。
オトザイサトコ