Otona no Kadaitosho

2018.09.7

谷崎潤一郎『刺青』(トイプードル通信2018年5月号より)

今月の課題図書は

谷崎潤一郎

『刺青』

 

 

横浜美術館で開催のヌード展の目玉がロダンの「接吻」でした。

これは、不貞行為、いわゆる不倫で、夫の逆鱗に触れ殺されてしまう前の恋人たちの、

最後にして永遠の接吻を題材にしたもの。

パオロとフランチェスカの物語です。

ロダンの「接吻」は、かなり力強く、堂々としてんな~と感じましたが、

テーマとしては死の影が漂う退廃的ロマンス。

 

なので、今月のオトナの課題図書は、

退廃美を書かせたら右に出る者はいない、谷崎潤一郎をピックアップです。

なんとなんと、愛が強すぎて今までもったいぶりすぎたのか?

トイプードル通信でご紹介していない!まじか、びっくりだ。

一体何を紹介してきたんでしょう、今まで。

 

一番好きな作家は?

そう聞かれたら、迷いもなく谷崎潤一郎です。

全てにおいて、痺れるのはこの大作家です。

私は「陰翳礼讃」が一番好きですが、「刺青」は、谷崎文学の真骨頂かもしれません。

 

 

江戸時代。

刺青が粋なものとして流行していた時代。

清吉という腕利きの彫師がおり、この若い彫師の心にはある宿願が潜んでいます。

それは、光輝ある美女の肌に、己の魂を彫り込むこと。

あるとき清吉は、やっと探し求めた美女に出会い、

その若い女を麻酔薬で眠らせ、女の背中に己の魂を移した大きな女郎蜘蛛を彫るのです。

麻酔から目覚めた女は、清吉も驚くほど、以前とはまるで別人のように変わってしまいます。

 

 

「親方、早くに私の背の刺青を見せておくれ、お前さんの命を貰った代わりに、私はさぞ美しくなったろうねえ」

 

 

まさに背中に背負った女郎蜘蛛そのもの、

男を手玉に取る魔性の女になってしまうというお話。コワヒー

 

肌に何かを纏うということは、その事実以上に、人間の精神に影響を与えるのだそうです。

いかつい服を着ると、強い男性になったような気分になり、態度が大きくなったり、

ふんわりとしたドレスを着ると可愛い女の子になった気分になり、仕草まで可愛くなる、、、みたいなことですね。

ネイルをすると気分がアガル。とかよく我々女子は言いますが、それもたぶん似たようなもんです。

 

女の本性が、刺青によって暴かれたのか、

それとも女郎蜘蛛が憑依し女を変貌させたのか。

分からないですけど、

本来は無垢な肌の上に、

私たちだって誰しも、幾重にも鎧を重ねて、強く見せたり、か弱く見せたり、

そんな風に自分をプロデュースしながら生きてるのです。

だってサルは服着ないし。

 

それこそがアダムとイヴから始まる人間の愚かさであり、

人間の人間たるゆえんの、脆弱な美しさである気がしてなりません。

 

究極のフェティシズム文学、

お口に合えば、是非どうぞ。

 

 

おやすみ、

おはよう。

では、また会う日まで。

オトザイサトコ